有機化学の構造決定では、問題文に必ずヒントとなる“キーワード”が散りばめられています。「臭素を脱色した」「銀鏡反応を示す」「ナトリウムと反応した」などの記述は、単なる情報ではなく “構造を絞り込むための鍵” です。
今回の記事では、高校有機化学で頻出する「キーワード → 推定できる構造」を体系的にまとめました。覚えるというより“条件が出たら自動的に構造が浮かぶ” という状態を目指しましょう。
1. 臭素 Br₂ との反応から推定する
1-1. 臭素水を脱色する = 炭素間二重結合or三重結合
炭素間二重結合(C=C)や炭素間三重結合(C≡C)には塩素や水素など様々な付加反応が起こりますが、臭素が付加反応する場合、臭素水の赤褐色が脱色するという目に見える変化があるため、キーワードとして頻出です。
不飽和度が0ではないのに脱色しない場合、炭素間多重結合を持たない(= 炭素 – 酸素間二重結合をもつ or 環状構造である)と推測することができます。
1-2. 臭素と反応し白色沈殿が生じる = フェノール
フェノールと臭素を反応させると、置換反応により 2,4,6 – トリブロモフェノールが生成します。
この反応は常温で、鉄触媒なしに白色沈殿を生成する反応です。
2. 異性体から推定する
2-1. シス・トランス異性体をもつ = 炭素間二重結合
生成物がシス・トランス異性体をもつ場合、それは炭素間二重結合をもつことを意味します。
シス・トランス異性体とは、有機化学における立体異性体の一種で、炭素間二重結合を挟んで同じ側に同一の原子団があるものをシス異性体、対角線上にあるものをトランス異性体といいます。
2-2. 光学異性体をもつ = 不斉炭素不斉をもつ
生成物が光学異性体をもつ場合、それは不斉炭素原子(4つの互いに異なる原子または原子団と結合している炭素原子)が存在することを示します。
3. 官能基を推定できるキーワード
3-1. 金属ナトリウム Na と反応する = -OHをもつ
アルコール、フェノール類、カルボン酸はその構造に -OH を持つため、金属ナトリウムと反応し、水素を生成します。
カルボン酸がもつ -OH はカルボキシ基(-COOH)によるものなので注意しましょう。
3-2. フェーリング液を還元する・銀鏡反応を示す = -CHO をもつ
アルデヒド基(-CHO)は還元性を示す官能基なので、フェーリング反応、銀鏡反応を起こします。
- フェーリング反応:フェーリング液の還元反応により赤色沈殿(Cu₂O)が生じる。還元性の官能基(アルデヒド基)の存在を示す。
- 銀鏡反応:アンモニア性硝酸銀水溶液中の銀イオンが還元され、鏡のような反射面を形成する反応。還元性の官能基(アルデヒド基)の存在を示す。
3-3. ヨードホルム反応を示す
生成物がヨードホルム反応を示すとき、以下の構造をもつと推測することができます。

ただし、Rは炭素原子か水素原子である必要があります。そのため、酢酸ではヨードホルム反応はおきません。
3-4. 塩化鉄(Ⅲ)水溶液 FeCl₃ を加えると紫色を呈色 = フェノール類
塩化鉄(Ⅲ)水溶液と反応して紫色を呈色するのは、フェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環に結合した -OH)が存在すること、すなわち生成物がフェノール類であることを示します。
3-5. 炭酸水素ナトリウム NaHCO₃ を加えると発泡 = カルボン酸(スルホン酸)
炭酸水素ナトリウムを加えて発泡した場合、カルボキシ基(-COOH)もしくはスルホ基(-SO₃H)をもつと考えられます。
これは、弱酸遊離反応により二酸化炭素が発生するためです。酸の強さ関係をここで復習しておきましょう。
・酸の強さ
強酸 > スルホン酸 > カルボン酸 > 炭酸(第一電離) > フェノール
4. 加水分解から推定する
4-1. 加水分解によりカルボン酸とアルコールが生成 = エステル結合
加水分解により生成された物質がカルボン酸とアルコールであるならば、元の物質はエステル結合(R₁COOR₂)をもつと考えることができます。
4-2. 加水分解によりカルボン酸とアミンが生成 = アミド結合
加水分解により生成された物質がカルボン酸とアミンならば、元の物質はアミド結合(R₁CONHR₂)をもつと考えることができます。
4-3. 塩基を用いた加水分解(けん化)
エステルやアミドを塩基とともに加水分解すると不可逆的に加水分解がおこります。
これをけん化といい、カルボン酸ナトリウム塩とアルコール(またはアミン)が生成します。
5. 酸化のようすから推定する(アルコール)
5-1. アルデヒドを経てカルボン酸を生成する = 第一級アルコール
第一級アルコールとは、ヒドロキシ基が結合した炭素原子に水素が2つ以上結合しているアルコールです。
これらの物質は、酸化されることでまずはアルデヒドとなり、さらに酸化が進むとカルボン酸を生成します。
5-2. 酸化によりケトンが生成する = 第二級アルコール
第二級アルコールとはヒドロキシ基が結合した炭素原子に水素が1つ結合しているアルコールです。
これらの物質は、酸化されることでケトンを生じます。
まとめ
有機化合物の構造決定問題は大学入試における定番です。条件から、どんな構造をもつのか推定するパターンを覚えることで、スムーズに問題を解くことができるようになります。
ぜひ、本記事を演習の参考にしてください。
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